事務局 2011年度 長野県山岳協会 総括報告


あの大地震、大津波とそれに続く福島第一原発の事故から一年が経過しました。死者行方不明者は2万人、原発事故による放射能汚染は、「安全神話」を根底から覆し、未だ復旧、復興の道は緒についたばかりです。未だ多くの方が厳しい生活を続けておられますことにお見舞いを申し上げますとともに、一日も早い復旧、復興がなされますことを心から祈念致します。同時に経済の状況も憂慮すべき状態が続いています。
さて、そんな困難な状況の中、長野県山岳協会は昨年創立50周年を迎えました。「信州の山に登り、学び続ける」のテーマの下、3年前より記念事業実行委員会を立ち上げ準備を進めてきていましたが、大災害の直後ということもあり4月の総会を前に事業の実行に当たっては、様々な意見があったことも事実です。しかし、困難な状況だからこそ、「山に登る者が山に登ることを通じてできることを考えていく一年にしよう」と粛々と事業を推進することが決定されました。一年間を通して協会員の力を結集して、通常の活動に加えて10本の記念事業を、実施することができました。
5年ぶりに当番県となった北信越国体は、クライミング競技のみとなり前回とは様変わりしましたが、諏訪支部を中心に多くの皆さんのご協力をいただき、素晴らしい運営ができました。またこのノウハウを使い、マムートカップを成功させました。
懸案だった山岳図書の蒐集のために50周年事業として大町市の協力を得て取り組んだ山岳図書資料館の建設と、山岳総合センターの指定管理への指名という困難を承知で取り組んだ事業にも展望を見いだすことができた年でした。
通常の活動においては、それぞれの支部、委員会等と協会とのパイプも太くしながら検討を加え、支部や委員会の間でも横の連携をとりながら、それぞれの事業を展開しました。支部では「夏山登山教室」を中心に例年の活動をさらに活性化するよう工夫し、東北信の「雪山交流会」には他支部からの参加も恒例となってきました。特に諏訪支部においては北信越国体の主管支部として支部挙げて取り組んでいただきました。
「ジュニア委員会」では、3年目となった小学生を対象とした自然体験型の登山教室を今年も2回開催、「自然保護委員会」におけるフィールドワークの一層の充実や「医科学委員会」のアンケート調査の実施など、いくつかの分野で内容の濃い企画を立て、協会内外に呼びかけて社会還元をすることができました。「事業部」では協会の諸活動を年間を通じて参加してもらえるように、年度の早い段階で、協会全体の事業計画をダイレクトメールで会員に送りました。
山岳会の衰退の中で「協会」の役割が見えにくくなってきた昨今、協会員のニーズを正しくつかみ、それに沿った形で一人ひとりの顔が見えるような運営をしていくことがこれまで以上に求められていると考えています。
この様な中、これまで述べてきたような活動を地道に続けてきましたが、まだ不十分な点も多く、今後も現状課題の再検証や新たな課題の把握について対応し、その解決に向けた努力をさらに続けていきたいと考えています。

登山の普及・技術の向上・啓発活動
登山の普及は、協会加盟団体の活動そのものであると同時に、協会、加盟団体の持てる力の社会還元の二面を持っています。夏山登山教室については、天候の関係で延期した支部もありましたが、各支部がそれぞれ重要事業として捉えて実施しました。今年度も県の遭難防止対策協議会から補助金をいただきましたが、経年的に行われてきた実績に対しその意義は社会的にも充分に理解されています。
指導委員会と遭難対策委員会では、ここ数年の流れを受け、5月の針ノ木でのキャンプ、山岳総合センターとのタイアップによるレスキュー研修会(夏冬2回)、長山協キャンプでの合同研修会を実施しました。内容面では非常に充実しているものの、参加者に固定化の傾向が見られており、活性化に向けた活動が課題といえます。なお、指導委員会においては、指導員制度の変更に伴い資格取得に共通科目の義務づけがされるなど負担の増加が生じる中、今後の指導員資格者養成にあっては、経験則も含めた技術、理論の向上等現有資格者の自覚も促しながら、次代に伝えていくことが大切です。
自然保護委員会では、「まず実態を知ろう」と協会内外の人に呼びかけて様々な観点から継続的に自然保護観察会を行ってきましたが、2011年度は高山蝶と昨年実施できなかった冬のライチョウを取り上げました。長山協セミナーでの机上学習とも合わせ、参加者の意識も高く、有意義な活動となっており、地道な活動が少しずつ定着してきています。 ジュニア委員会では山岳総合センターとの共催、競技部との共同歩調によるスポーツクライミングを主体に人工壁だけでなく自然の岩場も活用した中高生の育成への取り組みを継続し、国体等でも活躍する選手を育ててきました。経年的に行っているフリークライミング強化プロジェクトの成果が現れてきており、岩場で登れる若者が育ってきています。また、2008年から始めたジュニア層へ野外活動の素晴らしさを伝える取り組みは今年度も2回実施し、少しずつ経験も蓄積されてきています。この取り組みは日山協からも評価されていますが、今後への足がかりとなる取り組みとして評価できます。

競技登山
2008年度大分国体からは、リードクライミングとボルダリングの2種目での競技となりました。選手育成はもとより、審判員の育成に関しても昨年度に引き続き取り組みましたが、現実問題として広く協会内に認知された取り組みにまでいたってはいないのが現状といえます。第66回国民体育大会(山口県)の予選会として本県で開催された北信越国体は、運営面では諏訪支部を中心に大会を成功させました。また出場権を獲得した選手諸君は、北信越国体はもとより本国体においても、それぞれの種別において自己の持てる力を十分発揮し、成果をあげました。とりわけ少年男子のボルダリングは5年連続での本国体入賞を果たしました。ジュニア委員会と競技部が合同で行っている強化の結果が現れてきています。強化に当たってご協力をいただいているクライミングジムにも感謝申し上げます。  日本山岳協会主催による「第7回山岳スキー競技日本選手権大会」は「第3回山岳スキー競技アジアカップ」を兼ねて小谷村において開催される予定でしたが、震災直後という状況の中、中止のやむなきに至りました。

国際登山・国際交流
国際部では共催で山のセミナーを開催し、情報交換の場を設定しました。現実問題としては国際登山の実行が大変に困難で情報や報告が活かされにくい状態が続いていますが、50周年事業を通して信高山岳会がヤズィックアグル峰の初登頂に成功、チベット、ブータン、四川での記念トレッキングや秋の北京への代表団派遣が行なわれ、50周年祝賀会へのCMA、NMAの招聘などの交流がありました。

事業部
山のセミナーについては、事業部が企画調整を行いました。これまで1泊で行っていましたが、昨年度からは日帰りで行っています。国際部、医科学委員会、自然保護委員会の三者に加え、今年度もジュニア委員会からの報告も行い、広く「山」を考えるセミナーとなりました。スムーズな進行と盛り沢山な内容で好評でしたが、参加者の固定化とマンネリ化が課題です。

医科学
登山者の立場にたった医科学委員会であるために、今年度は協会員にアンケート調査を実施し、まとめました。一昨年度からはじめた登山者の山岳高所における影響の調査については、医科学委員会のパルスオキシメータを使い信高山岳会がヤズィックアグルでデータをとりました。遠征後も松本大学酒井教授のご協力で、高所順応の持続性について現在も調査中です。

事務局(総務・財務・やまなみ・ホームページ)
収入収支については、理事などの個人負担も少なからず残る中、ここ数年の電子化により財政的にはゆとりが生まれている一方で、一方通行のメールは情報伝達という点で紙ベースの情報のような確実性に欠け、周知徹底が十分図れていない現状が生まれています。重要な情報は、郵送・メール便等を使いました。
「やまなみ」は予定通り4回の発行を行いました。また情報提供は各会へのメール、FAX、「長山協メール通知サービス」および協会ホームページを活用して行ないました。

長山協50周年記念事業
「信州の山に登り、学び続ける」をスローガンに、記念事業実行委員会が企画をし、協会員の力を結集して事業を推進しました。皮切りの50座登山については、設定日の5月29日は生憎悪天でしたが、安全に配慮しながら、期日の変更も含め、6月中には全50座の登山を完遂しました。揃いのTシャツも好評でした。海外トレッキングや海外登山を通し、中国・ネパールの仲間との交流も深まった一年でした。クライミング大会では、地元選手の活躍が勇気を与えてくれました。記念誌・アクシデント事例集はいずれも長山協らしい出版物となりました。一年間を通して協会内外の力を外にも内にもアピールできました。懸案だった「山岳図書資料」の蒐集と保存については、協会内外の多くの方々の多大なご協力により、大町市と共同で山岳図書資料館の開館へとこぎ着けることができました。この場をお借りして厚くお礼申し上げます。

山岳総合センター指定管理制度
山岳総合センターの指定管理制度導入にあたっては、昨年度の総会時は、まだ県の方向性が具体化していなかった面もあり、長山協としては「山岳県長野のシンボルになっている山岳総合センターは、県営を続けるべきである」旨申し入れをするというスタンスでした。その後6月県議会での2011年度の指定管理制度への移行の方向が決定してくる中で、長山協の「正しい登山の指導普及、発展をはかる」という目的追求のためには指定管理に応募した方がよいという理事会決定をしました。このことは「やまなみ」を通じて協会員の皆さんにもお知らせしてきたところですが、その後思いを共有する「NPO法人信州まつもと山岳ガイド協会やまたみ」のみなさんと共同で応募し、指定管理者に決定しました。その後、協会員の皆さんにも折に触れて説明をし、理解を求めながらこの4月の出発に向けて、準備を進めてきました。