事務局 2012年度 長野県山岳協会 総括報告


長山協の51年目のスタートにあたり、昨年度の総会で、「『前を見て進んでいくことで希望と勇気を示す』そんな一年にしていかねばなりません。『信州の山に登り、学び続け』てきた50周年の歩みの上に、新たな未来を展望するような協会運営に心がけて行きたいと考えています。」と訴え、皆さんにお認めいただきました。その精神に則って昨年度一年間、様々な事業を展開してきましたが、全般には少し低調な一年だったような気がしています。50周年事業が終わり、一つ大きな節目をこえたという安堵もありましたが、次への明確なビジョンをもてなかったのも正直なところです。
しかし、そんな中で、国体成年男子チームのリード優勝、ボルダリング2位という結果は明るい話題でした。フリークライミング強化プロジェクトの成果が目に見える形で現れたものといえます。また、先鋭的な登山を志向する信州大学学士山岳会の馬目弘仁さん、花谷泰広さんのキャシャールサウスピラーの登攀に対してのピオレドールの授与は、先の横山勝丘さんの受賞に次ぐ快挙でした。11月には、日本山岳文化学会、日本ヒマラヤ協会と共催で「山の文化IN NAGANO」を行いましたが、長野らしいイベントで参加者には好評でした。そのほか、新たな取り組みとしては「指導委員会のウインターミーティング」「自然保護指導員の養成研修の実施」「遭対委員会と山岳総合センターのタイアップでの安全啓発のためのリーフレットの作成と配布」「医科学委員会の登山者へのアンケートのまとめ」などが特筆されます。ネパール山岳協会やチベット登山協会との交流も行われましたが、今後も引き続き友好の精神を活かしながら息の長い活動を続けて行きたいものです。
通常の活動では、それぞれの支部、委員会等と協会が連携をとりながら、事業を展開しました。協会事業の一つ一つをだいじにするということで、夏山登山教室や山のセミナーで成果がみられました。また、高齢層を多く会員に持つ山岳会でも、リーダーが明確な意思やビジョンをもち、きちんとした会運営をして山に行っている会は元気があります。山岳会の衰退の中で「協会」の役割が見えにくくなってきた昨今、協会員のニーズを正しくつかみ、それに沿った形で一人ひとりの顔が見えるような運営をしていくこと、会の横のつながりを作っていくことがこれまで以上に求められていると考えています。
高体連の県大会への参加者がここ数年徐々に増えつつあるという報告は、昨今の山ブームを象徴する事象ともいえますが、生徒に向き合う顧問の先生方の地道な活動の成果でもあります。一方で、困難を承知で買って出た山岳総合センターの運営は、関係各位の格別のご尽力により、初年度としてはまずまずの成果を収め、来年度以降の運営にも自信をもって臨むことができそうです。ここに集う受講生を含む未組織の登山者や高体連の若者たちは、我々山岳会の潜在的な予備軍とも言いうる層ですが、こういった登山者へのアプローチは今後の長山協の活動にとっては生命線ともいえ、様々な形での啓発をしていくことが求められています。
創立50周年記念事業の一環として実施した「山岳図書資料館」は、昨年4月20日無事オープンを迎えました。図書資料も全国の岳友の支援を受け、2013年3月末現在、当協会経由資料14,485点と山岳博物館所蔵図書資料を合わせ、27,567点の山岳図書資料が収蔵されました。今後も引き続き県内外の山岳関係図書資料(会報、報告書、地域本など)を後世に残すべき図書資料の収蔵、保管、活用が期待されます。また、利用者も安定的にあり、今後も山岳博物館ほか関係者との協力の下に資料の充実、適切な運営に努めることが肝要です。

登山の普及・技術の向上・啓発活動
登山の普及は、協会加盟団体の活動そのものであると同時に、協会、加盟団体の持てる力の社会還元の二面を持っています。夏山登山教室については、各支部がそれぞれ重要事業として捉えて実施しました。今年度も県の遭難防止対策協議会から補助金をいただきましたが、経年的に行われてきた実績に対しその意義は社会的にも充分に理解されています。
指導委員会と遭難対策委員会では、ここ数年の流れを受け、5月の針ノ木でのキャンプ、山岳総合センターとのタイアップによるレスキュー研修会(夏冬2回)、長山協キャンプでの合同研修会を実施しました。また、新たな企画として「ウインターミーティング」を山小屋泊という参加しやすい形で計画することで、親睦を深めながら技術を高める機会が増えました。なお、指導委員会においては、指導員制度の変更に伴い資格取得に共通科目の義務づけがされるなど負担の増加が生じる中、今後の指導員資格者養成にあっては、経験則も含めた技術、理論の向上等現有資格者の自覚も促しながら、次代に伝えていくことが大切です。
遭対委員会は山岳総合センターと共同で夏山登山者への安全啓発のためのリーフレットを作成して、北アルプスの登山相談所で配るといった社会還元的な活動もはじめました。
自然保護委員会では長山協セミナーの中で、懸案であった自然保護指導員の養成研修を行うことができ、23名が資格を取得するという新しい動きもあり、今後の活動に期待が持てます。またネパールで長年にわたって植林活動を続けてきた安倍泰夫さんの主宰する「カトマンドゥ」のボランティア活動のサポートをする訪問団を組織し実際に活動をしてきましたが、実地で経験をすることで今後国内外でできることをしようという機運が盛り上がってくるきっかけとなりました。
ジュニア委員会では山岳総合センターとの共催、競技部との共同歩調によるスポーツクライミングを主体に人工壁だけでなく自然の岩場も活用した中高生の育成への取り組みを継続し、国体等でも活躍する選手を育ててきました。経年的に行っているフリークライミング強化プロジェクトの成果が現れてきており、岩場で登れる若者が育ってきています。また、2008年から始めたジュニア層へ野外活動の素晴らしさを伝える取り組みは4年目を迎え、少しずつ経験も蓄積されてきています。この取り組みは日山協からも評価されていますが、今後への足がかりとなる取り組みとして評価できます。

競技登山
国体では、成年男子で笠原大輔、中嶋徹組がリードで優勝、ボルダリングで2位となりました。快挙を成し遂げた成年男子はもとより、チーム長野として北信越を勝ち抜いた少年男子、成年女子、惜しくも出場権を逃した少年女子の皆さんの活躍にもこの場を借りて拍手を送ります。ジュニア委員会と競技部が合同で行っている強化の結果が現れてきています。強化に当たってご協力をいただいているクライミングジムにも感謝申し上げますとともに、関係の皆さんにも心から賞讃の拍手を送ります。
しかしながら、現在活躍している選手に続く選手層の薄さや大会運営をする予算的裏付け等が十分とは言えず、課題も多く抱えていることをこの場で指摘しておきたいと思います。また、審判員の育成に関しても昨年度に引き続き取り組みましたが、現実問題として広く協会内に認知された取り組みにまでいたってはいないのが現状といえます。そのような中で、昨年度初めて佐久平クライミングセンターで実施した長野県子どもクライミング大会は、関係各位の格段のご尽力により大成功でした。この取り組みはクライミングの普及という意味では画期的な取り組みであり、次年度以降も継続的に実施していくことが望まれます。
日本山岳協会主催による「第7回山岳スキー競技日本選手権大会」は「第3回山岳スキー競技アジアカップ」を兼ねて小谷村において開催されました。震災による1年中断というブランクを乗り越え、関係の皆さんのご協力で成功させることができました。

国際登山・国際交流
50周年記念事業の中で招請したチベット登山協会が一昨年度の記念祝賀会の折には諸般の事情で来日できませんでしたが、5月に来長しました。久しく途絶えている交流を復活しようと、2018年の兄弟協定締結30周年に向けて精神の確認をし、具体化に向けて活動をはじめました。8月には中国登山協会の招請で、ムスターグアタ国際スキー登山隊に3名を派遣しました。登頂はなりませんでしたが、若い世代が経験を積むよい機会となりました。また、同じく友好協定を結んでいるネパール山岳協会とは、環境トレッキング隊の訪問を機に友好協定の精神の再確認をしました。

事業部
山のセミナーについては、事業部が企画調整を行い、今年も日帰りで行いました。協会内の複数の委員会がかかわりながら、広く「山」を考えるセミナーとなりました。スムーズな進行と盛り沢山な内容で好評でしたが、参加者の固定化とマンネリ化が課題です。11月には日本山岳文化学会、日本ヒマラヤ協会と共催で「山の文化IN NAGANO」を行いましたが、長野らしいイベントで遠来からの参加者にも好評でした。

医科学
登山者の立場にたった医科学委員会であるために、今年度は協会員にアンケート調査を実施し、まとめました。一昨年度からはじめた登山者の山岳高所における影響の調査については、医科学委員会のパルスオキシメータを使い信高山岳会がヤズィックアグルでデータをとりました。遠征後も松本大学酒井教授のご協力で、高所順応の持続性については一定の結論がまとまり、今後学会等で報告の予定です。

事務局(総務・財務・やまなみ・ホームページ)
収入収支については、理事などの個人負担も少なからず残る中、ここ数年の電子化により財政的にはゆとりが生まれている一方で、一方通行のメールは情報伝達という点で紙ベースの情報のような確実性に欠け、周知徹底が十分図れていない現状が生まれています。重要な情報は、郵送・メール便等を使いました。
「やまなみ」は予定通り4回の発行を行いました。また情報提供は各会へのメール、FAX、「長山協メール通知サービス」および協会ホームページを活用して行ないました。
山岳総合センター指定管理制度

山岳総合センター
山岳総合センターの指定管理1年目は、関係の皆様のご協力で順調に事業を行ってきました。