長野県山岳協会
NAGANO.MOUNNTAINEERING.ASSOCIATION.JAPAN【N.M.A.JAPAN】

南アルプス高山帯における鹿食害 現地観察会 記録


2008年8月31日
杉田浩康作成
【8月23日(土)】
 日本海に低気圧が接近し、西日本南岸に前線が停滞している影響で、週末の天気予報は雨である。しかしそれほど強い雨にはならないとの予測で予定通り決行することにした。
  • 6:00 バスの出発地、戸台・仙流荘には登山者が数十名待機。雲はまだ高いが雨がポツポツ降り始めた。前日から仙流荘に泊まっていた、山学山遊会メンバー、日帰りの伊那山の会メンバー、長野から来ていただいた中部森林管理局の元島清人講師など、総勢14名でバスに乗り込む。
  • 6:40 大平山荘で下車。挨拶・簡単な自己紹介、大平山荘前で情報収集。鹿は小屋の周辺にも出没する。小屋のトイレは有料200円。
  • 7:05 出発。樹林帯に入るとすぐに、樹皮の剥がれた小さな針葉樹がところどころに見られた。春先に雪の上に顔を出した木の樹皮を鹿が食べた跡だと。よく見ると樹林の中に鹿道が確認できる。鹿は明るいところが好きで、針葉樹林より広葉樹林に多い、地上15センチから1.5mくらいの間の植物を歩きながら食べるので、鹿の通った跡はよくわかる、南アルプス南部は6〜7頭の集団だが、北部は20頭くらいの集団で多いという話だった。歩きながら、あるときは止まって元島講師の解説を聞く。
  • 8:10 滝見台着。雨が落ちてきたのでカッパを着る。山学山遊会・降旗さんは体調が悪くてここから下山。道は尾根を越えて藪沢に入る。沢の底で雪の残るところは草地になるので、鹿の餌場となる。稀少種や南アルプスの固有種が食べられていると解説を聞く。シシウド、バイケイソウ、ナナカマド、など道ばたの植物の先が食いちぎられている。左岸の斜面にはイネ科の草が生えている。イネ科の草は食べられても再生力が強くて、継続して食害を受けるところは次第にイネ科の植物が優勢になっていく。葉を食べられたナナカマドはやがて枯れてしまう。鹿はガラ場は嫌いで川原の中は歩かない。登山道の側面で草地につながるところに鹿用のロープが張ってある。少しは効果があるとのことである。
  • 10:30 馬の背ヒュッテ。霧が薄くかかって小雨。小屋の下と、すぐ横に網を張ってある。南アルプス食害ネットワーク(環境省、林野庁、伊那市ほか自治体、長野県、信州大学)がボランティアと連携して設定したものだ。植生を傷つけないようパイプを打ち込みそこに網を張って冬の雪の影響による柵の損傷を調べるという。また、食害を受ける場所とそうでない場所の変化を観察し、対策を研究するという。ヒュッテ付近から鹿の影響は顕著で、ダケカンバの斜面に下草は全くないところ、マルバダケブキだけになったところ、鹿道に沿ってナナカマドが枯れているところなど仙丈小屋のすぐ下まで鹿の影響がある。実生から発生し葉が1枚しかないクロユリが多数あった。多年草はまだそうやって生きながらえるが、一年生のものはその年花を付けなければ絶えてしまう。
  • 11:50 仙丈小屋。雨、風少し。一人小屋に残し、13名で仙丈岳頂上に向かった。ガスがかかってほとんど何も見えない。頂上直下5m程度の西側の斜面に鹿の足跡とシラネヒゴタイやイワベンケイを食べた跡を発見。大仙丈岳沢に棲む個体が来ているらしい。
  • 13:20 仙丈小屋帰着。日帰りの林さん、佐野さん下山。
  • 15:00 2階食堂で、テキストを使って元島講師から南アルプス全域の鹿食害の状況のレクチャーを受けた。南アルプス南部では7,8年前が個体数のピークで現在は減ってきている。しかし継続して食害を受けているので植生は回復してない。柵を張って鹿を閉め出したところは5年くらいで回復する。食害を受けたところは植物の種類が減って、マルバダケブキやタカネヨモギ、イネ科植物など鹿の食べない植物か食べられても再生力の強い植物ばかりになり多様性が著しく損なわれる。小仙丈カールに鹿の群が棲んでいて毎日観察できる。昼間はダケカンバ林に潜んでいて、夜から早朝にかけて行動し、1頭は1日に10〜30kgくらいの植物を食べてしまう。日本中で鹿が増えている。その原因は明治中頃に天敵のオオカミが絶滅したこと、猟をしなくなって保護したこと、都市化によりシカが住める平野部が少なくなったこと、温暖化で積雪量が少なくなりシカにとって住みやすい環境ができたと思われること。高山に侵入してきたのは、麓の人工林が生長し食物となる下草が無くなる中で、林道や登山道、沢沿いを通って高地に入ってみると法面や沢などの草地が豊富な餌を提供したのではないか。
【8月24日(日)】
 夜中激しい雨。朝になっても天候回復せず、早朝小仙丈カールに鹿を見に行く計画中止。
  • 5:00 起床。
  • 5:30 食事
  • 6:30 出発。小仙丈岳を回るルートで下山。ガスが掛かっていたが小仙丈カールをのぞき込む場所で、カールの底に1頭の鹿を発見。ハイマツの縁を駆け下りて藪の中に消えた。稜線まで鹿の足跡や鹿道、草を食べた跡が観察できてカールの中から稜線まで上がって来て登山道を通って行動していることが判る。五合目(2519m)あたりで左側のシラビソ林は被害無く、右の南東斜面の広葉樹と針葉樹の混合林は鹿道が観察され食害も点在していた。総じて針葉樹林は被害が少ないようだ。昔アツモリソウがあったという場所を田中副会長に教えてもらったが、まったく形跡なく、元島講師によれば鹿が食べたのだろうとのこと。植物の多様性が失われる問題と共に、希少種の絶滅という問題がある事を認識。
  • 9:20 北沢峠着。
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